G.I. ORANGE Psychic Magic 30th Anniversary Live |
左からMark Whitworth, Karl Whitworth, Gary Holt, Simon Whitworth。
時は第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンとTOP40最盛期の1985年。G.I. ORANGEは、日本の洋楽ポップス史に、その時代を彩るが如く、彗星のように現れ…そして消えた。
「ポップン・ロックをプレイする、英国の四貴公子!」と『月刊明星』付録の歌本で、洋楽新譜レビューに紹介されていた彼らは、名家出身の母と実業家の父を持つ、カール(vo)/マーク(kbd)/サイモン(b)のウィットワース兄弟+その友人ギャリー・ホルト(dr)の4人組アイドル・グループ。本国ではEMIよりシングル“Fight Away The Lover”をリリースしたきり芽が出ずにいたところ、CBS・ソニーの敏腕洋楽ディレクター(当時)・野中規雄氏に見出され、日本のみで「逆輸入」デビュー。TVとのタイアップ、音楽雑誌での積極的な展開、そして北海道から福岡まで日本各地をくまなく回る精力的なツアーを追い風として、唯一のフル・アルバム「Psychic Magic」は公称10万枚のセールスを記録したという。そして同年、クリスマス企画ミニ・アルバム「Winter Wonderland」を発売、'86年のシングル“Take Me To Your Leader”のリリースを最後に、バンドは失速、ついに消息不明となる。
そのG.I. ORANGEが、再始動していた。2010年より、かつての4人が再び集まり、リハーサルを重ねていたという。そして2014年末「Psychic Magic」リマスター再発の報と共に、アルバム発売30周年を記念した、来日公演が行われるという、冗談としか思えないようなプロジェクトが、2015年の最初の月に、実現してしまった。
会場内の男女比率は半々、リアル・タイムでバンドを知る30代後半~40代の女性客は当時を懐かしみ歓談し、子連れで来ている夫婦、後追いで彼らを知ったと思われる若者、'80年代洋楽世代と思しき中年男性たちも。時を経て2000年初頭に訪れた、'80s再燃の折、再び彼らの存在は、日の目を見た。ビッグ・イン・ジャパンというより、本国で実績皆無の『日本限定洋楽アイドル』。『一発屋』の名の下に時に失笑を誘い、「Psychic Magic」のCDがネットで高値で取引され、G.I. ORANGEは'80年代の日本洋楽ポップス史における幻の名盤アーティストとして、当時よりもより広い層に、知られ続けていたのである。
開演時間を10分程過ぎたころ、トランス風ミックスの“Psychic Magic”のイントロに合わせ、’80年代当時の映像や写真をコラージュしたプロジェクションがステージ後方に映し出された。曲が終わり、バンドが登場…かと思いきや、「GI Orange AFTER 30 YEARS」と映し出された文字とともに再び“Psychic Magic”の同じイントロが流れ、場内爆失笑。見事な手際の悪さと一発屋ぶりをワザとらしく誇示したいと言わんばかりの、酷カッコイイ演出。プロジェクションにはすっかりオヤジになったメンバーの近影。漸くイントロが終わると、メンバーが大歓声とともに登場。ブギ・ウギ調の“Dance My Soul”に続いて、「Psychic Magic」リマスター盤にボーナス収録されていた“Keep That Light”と、アップ・テンポの曲の連続で、観客の気分も上がる。
カールは現在、ロンドン郊外で「まったくの未経験からファースト・コンサートまでサポート」する音楽教室を経営しているという。表舞台ではないにせよ、さほどブランクも実際ないのだろう。パフォーマンスも慣れた様子だ。歌は声量もあり、表現力もそこらのアマチュアのおっさんの音楽活動とは一線を画したレベルで高い。昔も一番人気だった彼はすっかり渋い美中年にと変貌し、その佇まいに「カッコイイ…」と、場内の女性客からも声がしばしば洩れていた。私もこれならぜひ今でもお願いしたい。
「日本のTVショウで昔やったてんだけど…」とカールの振り付け指導のMCで導いてプレイされた“One Good Kiss”。カールの後方に立つマークが、スローな歌い出し部分で手持ちのiphoneを大きく振りかざして観客を促すと、客席でも画面の青い光が灯り出した。おっさん臭く突き出た腹に人の好さそうな笑顔で、時折下がったズボンを上げながら演奏するマークは、この中年ニューロマ・バンドの「成れの果て感」を演出する、おいしいアイ・キャッチとしか思えない。
「Psychic Magic」が名盤となった所以のひとつに、一度聴いたら忘れない粒揃いの楽曲をぎっしり詰め込むことを可能とした、バンドの優れた作曲センスにある。’60sポップスを下敷きにしたシンプルな曲展開に、殆ど繰り返しのサビにスキャット、手拍子で言葉の壁を越え、甘酸っぱい青春サウンド全開の泣きのコーラスに、情感過多でユニークな声質のヴォーカルとハード・ロックのリフ、エレクトリック・ドラムやフェアライトが添える、'80年代エッセンス。これらの明快さが、当時の日本の少女たちが、G.I. ORANGEに惹き付けられた大きな理由でもある。 え、ゴーストじゃねえの? って? そう思ったなら、カールのmyspaceページで、彼のソロ音源をチェックして欲しい。G.I. ORANGEとも共通する印象を持った楽曲の数々からは、彼のメロディメイカーとしての資質の高さが伺えるだろう。彼らが当時の日本のロー・ティーンにとって、洋楽ロックへの入口となったのは宿命だったともいえるし、もし彼らが本国でレーベルに恵まれ、JAPANやA-HA級の貪欲な音楽的探究心と野心があったならば、末期ブリティッシュ・インヴェイジョンの一翼を担っていたかもしれない。
「オーオーヤヒヤヒオ~オ~」
中盤のハイライトは、カールの歌唱指導に導かれ演奏された“Take Me To Your Leader”。“Psychic Magic”だけしか知らずに来た人々も、歌詞がわからなくても大丈夫。「オーオーヤヒヤヒオオ~」と、サビのところで歌えばみんな仲間。オーオーヤヒヤヒオ~オ~。
「新しいアルバムからの曲をやるよ」とサイモンのMCを聞いて、場内に小さなどよめきが起こる。マジか!? アルバム作るのか!? 私の心も揺れ、目頭が一瞬熱くなった。そして演奏された“Blue In Blue”と“We Are The Ones”。“ We Are The Ones”は'80年代の来日公演でも披露されており、そのままオクラとなった曲のよう。どちらもハード・ロックを強めた後期G.I. ORANGEの色が良く出た曲だ。
「Psychic Magic」のLP盤のラスト曲“Don't Want Your Yesterdays”に続いて、遂に会場の誰もが知るあの曲、“Psychic Magic”が演奏された。皆待っていたのだ。この曲を一緒に歌うのを。笑顔を絶やさずプレイするメンバー。集まった人々の想いが、より高められ、バンドと共にひとつになった。
ラストの曲は、かつてコンサートのイントロに使われていた“G.I. ORANGE”。一度メンバーはステージから去るも、すぐさま呼び戻されて、再び“One Good Kiss”と“Psychic Magic”を演奏して、ライヴは終了した。
後日、ネット上には、観客の賞賛の声が溢れていた。しばらく音楽から離れていたと思しきかつてのロック少女たちは、改めて彼らの楽曲の良さを再発見し、物見遊山で来た洋楽オタク達は「マジでヤバい」「ロックしていた」「フジ・ロック出てくれ!」との熱い声の数々。 プロのミュージシャンというには、アラも目立つショウだったが、ガチの生演奏でぶつかっていった彼らの誠意と本気。たった1時間半のステージでも、観客の心を打つには充分だったようだ。これが一夜限りの夢のショウなら、あまりにも特別すぎて、勿体ない。 ニュー・ロマンティックの最後の灯であった、THEN JERICOも帰って来た。再び禊を終えたボーイ・ジョージも、よりマッチョさと妖艶さが同居する異形のブルー・アイド・ソウル・シンガーとして甦った。だから、30年振りに、形あるものとなったG.I. ORANGEも、どうか続けて欲しい。かつての光を、眩しい程に再び浴びる場所が、間違いなくあると、この場に集った人々は皆、確信しているはずだ。
SET LIST
1. Dance My Soul
2. Keep That Light
3. One Good Kiss
4. Too Late
5. Two Hearts Beat Under One Roof
6. Every Single Day
7. Better Day
8. Chance Of Survival
9. Fight Away The Lover
10. Take Me To Your Leader
11. Blue In Blue
12. We Are The Ones
13. Don't Want Your Yesterdays
14. Psychic Magic
15. G.I. Orange
Encore
1. One Good Kiss
2. Psychic Magic